エレクたちのいる街からは遠く離れた地にある洞窟。
その奥には巨大な空洞があり、大きな城が建っていた。
その城内に人大きな叫び声が響いた。
「オウル様ー。オウル様ー。主が生まれました。どこにおられるのですか。」
鎧を着た兵士が汗だくになりながら走り回っている。
「騒がしいな。そんなに大声出さずとも聞こえておるわ。」
柱の影からゆっくりと一人の老人が姿を現した。
見た目は60〜70歳くらいであろうか。顔には深いシワが刻まれ、立派な白いひげを生やした老人が現れた。
老人とはいっても人間とは決定的に違うモノがあった。背中には大きく立派な翼が生えていたのである。
オウルの姿を確認すると、兵士は聞こえているならすぐに姿を現してくれればいいのにという言葉をギリギリで飲み込み、要件を切り出した。
「主がお産まれになりました。しかし・・・」
兵士が言いあぐねていると、オウルは次の言葉を待たずに主の部屋へ向かって歩き始めた。
部屋の前に到着すると、中から悲鳴と何かが壊れるような音が聞こえてきた。
しかしオウルはその音をまったく気にしない様子で重々しい扉をあけた。
部屋の中は太い柱が何本も立っており、奥には大きく豪奢な玉座が構えていた。
部屋の中央には華奢な少年と、それを取り囲む幾人もの兵士、それとバラバラになってしまった『元』兵士がいた。
周りを囲んでいた兵士の内の一人が少年を抑えようと近づいたが、少年がまるで空中にいる虫でも払うかのような動きをするとその兵士の首から上がなくなり、今まで頭の乗っていた部分から勢いよく血が噴出した。
その様子を見ていたオウルは
「やれやれ、こんな老人をまだ働かせるのか」
とつぶやくと、
「皆、下がれ」
と、低く威厳のある声で命令をした。
そして、ゆっくり少年に向かって歩き始めたかと思うと、まるで瞬間移動でもしたかのように一気に間合いを詰め、少年の両手首をつかみ語りかけた。
「主よ、落ち着いてくだされ。我等は貴方様の僕であり、決して仇なすものではございません」
主と呼ばれた少年は抑えられている手を振り払い澄んだよく通る声で
「では何故私の動きを制限しようとする。」
と少々苛立ったように話すとオウルを睨み付けた。
するとオウルはその眼差しにもひるまずに、
「こちらの手違いが御座いまして申し訳ありません。この部屋は汚れてしまいましたのでこちらへお越し頂けますか。」
と、別の部屋へ主を案内した。
主を案内した部屋には大きなテーブルがあり、その上には様々な料理が所狭しとならんでいた。
「空腹では苛立ちも増すばかりでしょう。こちらをお召し上がりください。」
とオウルはいうと、主を促した。
主は、確かに空腹だった様で、促されるままに机に備え付けてあった椅子に座り、食事を取り始めた。
20分ほどであろうか。一通り食べ終わると、王は椅子にもたれかかるように眠ってしまった。
兵士がおろおろとオウルの顔をみるので、オウルはしかたなく主を抱き上げ、食事をしていた部屋を出ると、長い廊下を歩いていき、とある一室へと主を連れて行った。
そこには飾り立てられたベッドがあり、そこに主を寝かせると部屋をあとにした。
廊下を歩いているとき、後ろについて歩いていた兵士はオウルの手をみてギョッとした。手首の少し上のあたりがふつうではありえない方向へまがっていたのだ。
兵士は思わず声を上げてしまった。
それに気づいたオウルは、自分の手を目の前に出すと、
「ああ、これか。さっき振り払われたときにちょっとな。お生まれになられたばかりだというのにやはり主の力はすばらしいな。」
そういってまるで子供を見ている親のような笑顔を見せると兵士をおいて、ツカツカと歩いていってしまった。

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