「ここは・・・どこだろう」
少年は柔らかなベッドから身を起こすとまずそのようなことを考えた。
いくら考えても何故ここにいるのかも、自分が何者なのかすらわからない。
大きくため息をつくと、自分のいる部屋の扉が開く音がした。
そちらに目を移すと、一人の老人が恭しく頭を下げ、
「お目覚めになられましたか。主よ。」
と言うとこちらに歩み寄ってきた。
少年は一瞬迷ったが、どうやら『主』とは自分の事だろうと理解すると単純な疑問が頭に浮かんだので、尋ねてみることにした。
「貴方は誰ですか。そして、僕は一体なんなのですか。」
老人はベッドのすぐ近くまでくると、口を開いた。
「これは申し遅れました。私の名はオウルと申し、貴方様のしもべでございます。そして、貴方様は我らが主です。」
この返答で、この老人がどうやらオウルという名前ということだけはわかったが、肝心の自分の事が
ほとんど明らかにされなかったので、次の言葉に困っていると
「色々と混乱されていらっしゃると思うので、話は部屋を移してから説明いたします。まずは着替えていただき、準備ができましたら、いらっしゃってください。案内は兵士の者にさせますので。」
オウルはそういうと、頭を下げて部屋を後にした。
少年」はこれ以上自分で考えても答えが出そうにないので言われたとおりに着替えを済ますと扉の前に控えていた兵士に案内されて部屋を移動した。
一目見ただけでガチガチに緊張をした兵士に案内された部屋には、大理石でできた机と柔らかそうなソファーが置いてあり、机の上には赤い色の液体の入ったコップがおいてあった。
オウルに促されてそのソファーに腰をかけると、オウルは話し始めた。
「まずは、我等と主の関係について簡単に説明をさせていただきます。我々は先代の主のお力により生まれ、命をかけてその命に従う者でございます。」
オウルは軽く咳払いをし、続けた。
「先代が亡くなられ、我々は主を失いましたがこの度、貴方様がお生まれになられたので、命令を頂ければそれがどんなものでも従います。ここまではよろしいですか。」
と、オウルに聞かれ、少年は頷いた。
「結構。では、喉が渇いていると思いますのでそちらをお飲みください。」
と、オウルに机の上にある飲み物を勧められた。
少年は何故このタイミングで飲むのを進められるのかと訝しく思ったが、言われたとおり喉も渇いていたので赤い液体の注がれた白いカップに口を近づけた。
すると鼻腔を甘い香りが充満し、一口だけ飲むつもりだったのに、自然とカップに注がれていた物をすべて飲み干してしまった。
その様子をみて、満足したオウルは説明を続けた。
「では、次に我々の種族がどのように命をつないでいくか。それは今飲んで頂いたものに関係致します。」
そう言われて、少年は先程飲み干したカップをジッとみつめた。
「この世界には我々以外にもいくつかの種族が暮らしていますが、その中のニンゲンとよばれる者がおります。ソレを摂食することにより我々は繁栄することが出来るのです。」
それを聞いた所で、少年はカップに注がれていた物の正体と、ソレが何故あれ程おいしかったのかを妙に納得してしまった。
オウルは説明を続ける。
「強い種族を残す為に重要なことが御座います。ひとつは、摂食する者自体が強い事。これに関しては主様に置かれましては考える必要はないと思われますがひとつの情報として覚えておいてください。
もうひとつ重要な事ですが、摂食する際に注意点がひとつだけ御座います。それはニンゲンが絶命するその時に出来るだけ強い『感情』を抱かせることです。その感情が強ければ強い程次代の種族は逞しく育ってゆきます。」
ここまで説明を終わると、この部屋に入ってきた時とは別の扉へと少年を促した。
オウルが扉を開けるとそこにはいくつかの卵状の物が並んでいて、少し透けているその中には何かが動いているようにみえた。
少年がその様子を見たのを確認したオウルは、
「もうお察しいただけていると思いますが、この中には主の直系の部下が宿っております。しばらくしたら、力のあるものが生まれ、主の手足となり働いてくれる事でしょう。」
オウルは扉を閉めると、
「今日の説明はこの辺にしておきましょう。何かあればなんなりとお呼びください」
そういい残してオウルは立ち去ってしまった。
少年はその様子を見送った後、城の中を確認する為オウル同様この部屋をあとにした。

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