「結局僕は何者なんだろう」
主とよばれた少年は朝目が覚めた後もベッドの上に身体を横たえたままそう呟いた。
前日にオウルから説明を受けたあと、広大な城内を散策したものの手がかりとなるものはなにもなく、
途中迷いながらも歩いている城内を警備しているのであろう兵士に道を尋ねつつ部屋に戻り眠りについたのであった。
『そういえば、僕が声をかけただけで皆怖がっていたな・・・声をかけないほうが良かったのかな』
いろいろなことが頭をめぐるが、ヒントもなく考えがまとまらずに再びやってきた眠気にウトウトとし始めたとき、
コンコン
と部屋の扉をノックする音が聞こえた。
少年が少し驚きながら
「はい」
と返事をすると、
「失礼します」
と扉の外から声が聞こえ、扉をあけて中に人が入ってきた。前日に色々と説明してくれたオウルであった。
「まだ睡眠中でしたか。失礼しました。」
と深々とオウルは頭を下げた。
「いや、大丈夫ですよ。ちょうど起きた所ですから」
と、少年はベッドの脇に立ちあがった。
「ではちょうどよかった。準備ができましたら昨日の部屋においで願えますか。」
と言い残し、オウルはすぐに部屋を出て行ってしまった。
その姿を見送った少年は準備をすませ、道順に多少不安を感じながらも後を追うように部屋を出て行った。
『親切に色々と教えてくれるんだ・・・いい人なんだろうな』
などど思いつつ廊下を歩き、指定された部屋へと入っていった。
「主よ、そちらに座っていただけますか。」
と先に部屋に来ていたオウルに促され少年は席に着いた。
机の上には前日に飲んだのと同様に赤い液体が注がれたコップが置いてあった。
少年がそれに気づいたのを確認するとオウルは
「よろしかったらそちらを飲みながら聞いてください」
と、勧めてきた。
少年は液体を一気に飲み干すと、ふぅと息を吐いた。
それを待っていたかのようにオウルが話し出す。
「では、昨日説明した、主の配下が生まれましたので紹介します。」
そう言ってオウルが部屋の隅にいた兵士に手を上げて合図を送ると、隣の部屋から一頭の黒い毛で覆われた大きな獣を連れてきた。
オウルは続けて説明し始めた。
「今回の配下の様に弱い部類の者は直ぐに生まれます。強い者程時間を要しますので今しばらくご辛抱下さい。」
少年は兵士の連れてきた獣を見て自分の配下でも同じような姿で生まれるものでは無いのだなと妙に感心していた。
「ここからが重要なのですが・・・」
そういうと、オウルはツカツカと獣に向かって歩き始めた。
そのまま獣の前まで近づくと、手刀で獣の首を切り落とした。
兵士にはおそらく動きが早すぎてその行動に気がつかなかったのだろう。獣の頭が床にゴトリと落ちてから、ヒイッと小さく悲鳴を上げた。
その光景を見ていた少年は僅かに首筋に違和感を感じていた。
オウルは少年の方に近づきながら話し始める。
「主もお気づきかと思いますが、直属の配下がダメージを受けるとその痛みは生み出した者に帰ってきます。」
少年はそれを理解したうえで今の行動をおこしたオウルに少し怯え、思わず視線をそらした。
しかし、それを気にせずにオウルは続ける。
「今回のように配下との力の差が大きい場合は今感じていただいた程度で済みます。・・・ですが」
オウルはここで一呼吸置き、自分用に注いであった赤い液体を美味しそうに飲み干した。
「ですが、もしこれが力の強い配下となりますと話が変わってきます。その痛みは実際に配下が受けたのと同様に帰ってきます。」
それを聞いたとき、少年は最初に大量な『食事』をした事を思い出し、身震いした。
それを見たオウルは優しげな目で
「ご安心下さい。主の力はとてもお強いので、そうそう配下もダメージを受けることは無いでしょうし、主の為に最善の行動を取ります。」
それを聞いてほんの少しだけ安心した少年は、ひとつの疑問が浮かんだ。
「オウル・・・もし、もし僕が死んだら配下はどうなるの。」
オウルは頷くと
「ありえないことですが、もしそのようなことが起きた場合は力の強い配下はことごとく死に絶えるでしょう。
そして、力の弱い配下はさらに力を弱め、ニンゲンよりも弱い存在となるでしょう。」
少年は視線を床に落とし
「僕一人でそれだけの責任を背負わないといけないのか。」
と呟いた。
それを聞き逃さずにオウルは
「それが主という者です。そして配下は全力で主をお守りいたします。もちろん私ももしもの時には身代わりとなってでもお守りいたしましょう。」
そういうとオウルは少年の前に跪いた。

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