キイィィィン
金属のぶつかる音が森に響き渡る。
エレクとレイアが特訓をしている鍔迫り合いの音だ。
特訓とは言っても言い換えれば主にエレクが遊ばれていると言ったほう正しいだろうか。
エレクは獣に完敗した後レイアに頼み込んで特訓をつけてもらう事にしたのであった。
レイアも最初は面倒くさいとは言っていたもののエレクの押しに負け、引き受けることにした。
もっとも今となってはかなり楽しんでいるようでもあるが・・・。
「ホラホラ、そんな構えじゃ簡単に切り込まれるよ。」
レイアはそう言いながら非常に楽しげな表情でエレクに切り込んでいく。
エレクはまったく攻撃に移せずに防戦一方だった。
「早く打ち込んでくれないとツマンナーイ」
と、レイアは剣を止めて挑発してきた。
エレクはさすがにちょっと頭にきてレイアに向けて剣を振り下ろした。
レイアはそれを見越していたかのように振り下ろされた剣をいなし、バランスを崩したエレクに対して腹に膝蹴りをいれた。
「ウグッ」
エレクはそう呻くと剣を地面に落としうずくまった。
「まだまだだねぇ」
とレイアは言うと、自分の剣を鞘に収めた。
「喉が渇いたなぁ。」
そう言って腰を下ろすのにちょうどいい切り株に座り、エレクをチラリと見た。
エレクはその視線を感じ、まだ痛みは残っているもののフラフラとバケツを手に川に向かって歩き出した。
『僕はこの特訓で強くなっているんだろうか。』
実際レイアと対峙すると、自分でも笑ってしまうくらい歯が立たない。
実力差があり過ぎて相手の強さも自分の成長も感じ取れないのであった。
そんな事を考えているうちに川についたので、水を汲み直ぐにレイアの元へ帰っていった。
レイアのいる所まで帰ると待ちわびていたかのように
「ありがとー」
とレイアは言いながらコップを出すので、そこに今汲んで来た水を注いでやる。
それをレイアは一気に飲み干し、
「冷たくておいしー」
といった。
それを確認した後エレクもコップに水を注ぎ一気に飲み干す。
特訓で乾いた身体の隅々まで水が行き渡るのを感じた。
『そういえばレイアは汗すらかいてないな、僕では汗すらかかせることができないのか。』
「ずっと無言だけど、大丈夫かい」
と言いながらレイアが顔を急に覗き込んできたので
思わずエレクは身体を仰け反らせながら
「だっ、大丈夫です」
と答えた。
その様子を見たレイアは
「そんなに驚くことないのに・・・」
とブツブツといったあと、
「今日中に森を抜けて街に入るよ。この森を抜けたら直ぐのところにあるからね。」
レイアはそういって立ち上がると荷物をまとめ始めた。
エレクも慌てて荷物をまとめた。
森を抜けると、草原が広がっており、その奥の方に街が見えた。
街に向かって、レイアが前その後ろを追うようにエレクが歩いていた。
街の前までたどり着き、レイアが街の入り口の両脇にいる衛兵に軽く手を上げて挨拶をし、中へ入っていった。
そこでエレクも入ろうとしたところ
「待て」
と衛兵に止められてしまった。
なぜ自分が止められたのかわからないのでオロオロとしていると、
「剣を抜け。」
衛兵達はそういいながらすでに戦闘体勢に入っていた。
訳がわからずに一応鞘に納まった剣に手を書けた状態で固まっていたが、
レイアが
「いいから早く件を抜きな」
と街の中から声をかけられた。
それならばと、エレクは剣を抜き、構えた。
衛兵達はエレクを挟むように立ち位置を移動した。
そして、まずエレクから見て右側に立っていた衛兵が突きを放ってきた。
『遅い・・・レイアの剣速に比べたら・・・これなら倒せる』
エレクは突きを避けると衛兵の剣を上から叩き落した。
その時、もう一人の衛兵が上段に構えたまま切りかかってきた。
そこでエレクは相手の喉元に剣先をつきつける。
「参りました。ようこそオルドの街へ。」
そう言うと衛兵達は一礼をし、街へと通してくれた。
街へ入ると、後ろから
「3くらいかな」
「そうだな、多分3くらいだろうな」
という話し声が聞こえたが、エレクは気にせずにレイアの近くまで行くと、レイアが話し始めた
「ゴメンゴメン、説明してなかったね。最近はどの街も物騒だから、自分の身を守るだけの力があるか門番が
力試しをするのさ。そういう意味ではノーブルは例外。で、エレクは合格したってわけだ。」
それを聞いてエレクは特訓は無駄じゃなかった事がわかり少しだけ自信がついた。
「レイア、武器屋を見たいんだけどいいかな。」
エレクは鍛冶屋をやっていたこともあり色々な武器を見てみたかった。
「まずはご飯にしたかったけど・・・まぁいいよ。じゃあ行こうか」
そうレイアが言い、街の武器屋にむかって歩き始めた。
その道中、エレクは衛兵2人相手に勝った事を思い出してはニヤニヤとしていた。
しかし、その表情をみて同じように・・・いや、ちょっとイジワルな感じでその様子をニヤニヤとみていたレイアが気になった。
そうして歩いているうちに名前は書いていないが剣のマークが書いてある看板を出している店にたどり着いた。
その剣の刀身には8とマークが入っている。
『なんの数字だろう。』
エレクはそう思いながら店の扉を開け、中に入っていった。
店内には剣以外にも弓や、槍、武器にするのかわからないが包丁にのこぎりまで置いてあった。
エレクが色々と物色していると、
「お、客か。」
そういいながら店の奥から筋骨隆々の店主らしき人が現れた。
「どうだい、うちの武器は」
そう店主に聞かれたエレクは
「いい武器ですね。」
と答えたが、あまり気持ちが入っていなかったのがばれてしまったようで、
「あまり納得いいてないようだな。じゃあとっておきのやつを見せてやるよ」
と店主は店の奥に戻ると一振りの剣を持ってきた。
「これは今日仕入れたんだが、なかなかのものだと思うんだがな」
そう言って剣を鞘から居合い切りの要領で引き抜いた。
ヒュンッと風をきる音がした。
その剣は今使っている両刃の剣とは違い片刃で、確かによく切れそうだった。
しかしエレクは違うところが気になっていた。
『今・・・見間違いじゃなければさっきの衛兵よりも剣が早い気がする・・・』
と、エレクが考えていると、
「まぁ、気に入ったものがあれば買っていってくれ」
と店主に言われたが、
「ありがとう。また来るよ。」
とレイアがまだ考え込んでいるエレクを強引につれて店を出て行った。
「レイア、あの・・・」
とエレクが言いかけたところで
「エレクも気づいただろうけど、ここの店主は衛兵達よりも強い。それどころか、店を出している所
の店主は全員衛兵よりも強いだろう。」
そういわれて街をよく見渡してみると、道具袋の看板には5、宿屋の看板には2といったように数字が入っていた。
それをキョロキョロとみているエレクにレイアは続けて説明した。
「門番っていうのは普通は強いものだと思われるけど、いざ攻められたとなれば門番だけじゃ防ぎきれない。
そして、街に攻め込まれたときに真っ先に狙われるのは武器や道具といった物なわけさ。だからこの街に住むものは
皆門番より強く、最低限自分を守れるくらいの強さなんだ。」
エレクは説明を聞いて納得はできたが、同時にさっきまでの自信もなくなってしまった。
レイアは
「まぁ、気を取り直してご飯にしようじゃないか」
とエレクの背中を叩いた。
二人が食事処につくと、レイアが待ちきれないとばかりにどんどんと注文していく。
しばらくして、注文したものがあっという間に山のように机の上にならんだ。
レイアはいただきますというと、どんどんと胃袋に収めていった。
エレクもその姿を見て、つられるように食べていった。
食事の大半を食べ終わると突然奥から大きな声が聞こえた。
「えぇ〜、食料を積んだ馬車が襲われただって。まいったな・・・」
この店の店主らしき人が顔をしかめている。
それを聞いたレイアはすっと立ち上がり店主のほうへ近づいてなにやらコソコソと話すと席にもどってきて言った。
「さぁ、行こうか。」
そう、突然言われエレクは戸惑い
「何処に行くんだい」
と聞くと、
「さっきの話が聞こえただろう。食料を取り戻してやるのさ。」
とレイアが言ったのであの話を聞いて直ぐ行動するなんていい所もあるんだな。とエレクが感心した顔をしていると
「それにこの依頼を完了すれば今の食事代はチャラにしてくれるって言ってたしね。」
とレイアはウインクをした。
「はぁ、聞かなきゃ良かった」
とエレクがため息交じりにつぶやくと、
「さぁ、さっさと終わらせようか」
とレイアがエレクを引っ張るようにつれて店を出て行った。
レイアが店主に聞いた話によると、街の近くに洞窟があり、そこを根城にしている盗賊団がいるらしい。
二人でその洞窟に向かうことになったのだが、エレクには不安があった。
『たしかさっきのお店の看板には2って書いてあったな・・・衛兵達の会話からすると自分は3らしい。大丈夫なんだろうか。』
そんな事を考えているエレクを気にも留めずレイアは歩いていき、二人は洞窟の手前までやってきた。
入り口には見張りであろう盗賊が立っていた。
それを見たレイアは
「さぁ、行ってみようか」
といってエレクの背中を押した。
「え・・・レイアは行かないの」
と、エレクの問いに
「何言ってるんだい。エレクの特訓の為にこの依頼を受けてきたんだからありがたく行ってきなさい」
そうレイアはさも当然といった態度で言い放った。
エレクの頭の中には
『自分が楽をしたいだけじゃないのか。』
『食事代の為じゃないのか』
『ちょっと僕をいじめて楽しんでるんじゃないか』
等々浮かんできたが、それを口に出すと笑顔で拳が飛んでくるのがわかっていたのであえて何も言わずに見張りの前に進んでいった。
「何か用かニイチャン」
そう言うと首をコキコキと鳴らしながら見張りが近づいてきた。
「奪った食料を返してもらおうか。」
エレクが剣に手を添え、身構えながらそう言うと
「返せと言われて素直に返すくらいなら奪わないわな」
と、そう言って見張りも剣を構えた。
二人は正面に対峙する形になったが、見張りは剣に自信があるのかエレクが攻撃してくるのを待っているかのようにニヤニヤと笑っている。
エレクはこのまま固まっていてもしょうがないと考え剣を腰の鞘から引き抜くと一気に間合いを詰め横薙ぎに見張りに切りかかった。
「おっと。あぶねぇ」
相手はバックステップの要領でその剣をかわした。
「なかなか剣を抜かないから腰抜けかと思ったらなかなか良い太刀筋してるじゃねぇか。」
見張りの顔からニヤニヤとした表情がきえた。
「だが、まだまだ道場稽古の剣って所だな。じゃぁこっちもいくぜ」
そういって上段から一気に剣を振り下ろしてきた。
この時エレクはレイアとの特訓を思い出し、相手の剣をいなす。
『ここで膝蹴りを』
エレクは思いっきり相手の腹にめがけて蹴りを放った。
しかし、それを見越していたかのように見張りはエレクの後ろに回るように膝をかわすと、
「甘いんだよ」
そういってエレクの首の後ろをつかみ地面へ叩き付けた。
「これで終わりだニイチャン」
エレクの背中に剣を突きたてようとする。
「ちょーっとまった。」
その声と同時に見張りの手から剣が消えた。
レイアがいつの間にか見張りの後ろから剣を奪ったのである。
「そんなに簡単に終わっちゃうとエレクの稽古にならないんだよねー」
そうレイアは不満顔で漏らす。
「てめぇ何しやがる」
見張りが取られた剣を奪い返そうとした時
どうぞと言わんばかりにレイアは剣を見張りの前に差し出した。
「さ、続きをどうぞ」
そう言うとクルリと見張りに背中を向け離れようとした。
「なめてんじゃねぇぞ。」
見張りがレイアに近づいて剣を振り下ろそうとしたがそれより早くレイアは見張りに向き直るとその首を掴み
「アンタの相手は私じゃないだろう」
と見張りを突き放した。
エレクはそんなやり取りをしている間に立ち上がり、なんとか剣を構えた。
見張りはチッと舌打ちをすると
『このニイチャンはまぁいいとして、この女は俺じゃ手に負えなさそうだ』
そう考え、指笛を鳴らした。
エレクは愕然とした。
洞窟から20人はいるかという集団が出てきたのである。
「おいおい、なーに遊んでやがる。今日の見張りはお前だろうが」
そう盗賊団の一人は面倒臭そうにいった。
「まぁそう言うなって。このニイチャンはたいしたこと無いが、その女はつええぞ。」
そう見張りがいうと、
洞窟から出てきた盗賊たちはレイアを舐め回す用にみると、
「いい女じゃねぇか。強いって言ったって多勢に無勢だろ。」
そう言われたレイアは
「やっぱ判っちゃう。そうよね〜、私ほど良い女はそうそういないもんね〜」
と、『いい女』の部分しか聞こえなかったかのように満面の笑顔である。
その様子を見て
「なめてんじゃねぇぞ。おい、そっちのニイチャンはお前がどうにかしろ。」
そう言うと盗賊達は一斉に武器を手にレイアに襲い掛かった。
レイアは剣を構えると、
「エレクはそっちをお願いね〜。油断してると次は死ぬよ」
真剣な顔でエレクにそう言い盗賊達と戦い始めた
「おい、ニイチャン。さっさと終わらせようぜ。お楽しみが待ってるしな」
そう言って舌なめずりをすると、エレクと再び対峙する形になった。
『次は死ぬ』
その言葉がエレクの頭に響いていた。
そしてレイアの為にも早く加勢に行かなければと思った。
エレクはまともに普通に剣を振っても避けられるので、
腰を落とし、地面ギリギリに剣を横薙ぎに振った。
「おいおい、またそれかよ」
そう見張りはいうと先程と同じようにバックステップで避ける。
エレクはそこにもう一度同様の剣を振る。
見張りは呆れたかのように今度はその剣をジャンプして飛び越そうとした。
『今だ』
エレクは飛び上がった見張りに対し、タックルをした。
相手は空中にいたため避けることができずに後ろへと吹っ飛び仰向けに倒れた。
そこにエレクは飛び掛り腹に一撃パンチを入れ、相手を気絶させた。
『勝った・・・』
エレクはその言葉が頭に浮かんだが、喜んでいる暇はなかった。
レイアが敵に囲まれているはずである。
直ぐに立ち上がりレイアの助けに向かおうとした。
・・・が、エレクがレイアの見たとき取り囲んでいたはずの盗賊達はいなく、レイアが一人こちらを向いて拍手をしていた。
よく見ると、盗賊達はいなくなったのではない。全員レイアの周りに倒れていたのである。
「良くやったじゃないか。さて、さっさと食料をもって依頼を済ませようか。」
さっさと洞窟に入っていってしまった。
エレクは盗賊一人に勝ったくらいでまだまだだと思いながらレイアの後を追っていった。


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