エレク達が宿屋に戻る頃には日も落ちてもう辺りは暗くなっていた。
宿屋の主人に盗まれたものを返すと、是非一泊していってくれと言われたのでその好意に甘え、宿泊した。
翌朝、エレク達は朝食を取りながら今後の予定を考えていた。
「エレクはこの旅でどうしたいんだい」
レイアが大きな肉を美味しそうにほおばりながらエレクに聞いた。
「父さんと母さん、それと村の皆の仇を取りたい。」
エレクはそう一言言うと、拳を握り締めた。
「そうだね。但し、今のままじゃ仇を取る事は無理だろうね。」
レイアはそう言うと、口の中の肉をスープで流し込み話を続ける。
「エレクの村とこの街に来る前に会った黒い獣がいただろう。あいつらは最近どんどんと数を増やしてきてる。
但し、普段は単独行動で村を襲うなんてことは無い。裏で指示しているヤツがいるだろうね。あの獣に勝てないようじゃ
仇どころか数日後にはエサになるのがオチさ。そこでだ」
レイアはここまで話すと机の上に地図を広げた。
「この街の近くに村があるからまずはそこへ行って、情報を集めよう。もちろん私がその間にエレクをいぢめ・・・じゃない特訓してあげよう。」
エレクはレイアの本音が聞こえたような気もしたが、自分が力不足なのはわかっていたのでその話に乗ることにした。
食事を終え、街を出ると二人はオルドから東へ30分ほど歩いた所にある村へ向かった。
エレクはまた門番と戦うことになるのではないかと身構えたが、規模の小さな村ではそのシステムは無いようであった。
村に入るとまずは話を聞く為、村長に会いにいった。
村長に軽く挨拶をし、何か困っていることはないかとたずねると、村長は話し始めた。
「この村の近くに洞窟があるのだが、その奥からは質の良い鉱石が取れてな、それを売って村の財源としてきたのだが、
最近洞窟の入り口に何か薄い膜のような物が出来て入ることすら出来なくなってしまった。」
村長は肩を落としながら机の上にあったカップの水を飲んだ。
「このままではこの村の人々を餓えさせてしまうのでいろんな冒険者にどうにかしてもらおうと依頼したのだが、膜自体は弱そうなのに
剣も斧も爆薬ですらビクともしない。」
村長はエレク達をチラリと見て、
「どうやらそちらのお姉さんは腕に覚えがありそうだが、あの膜の前じゃなんともならんだろう。」
その言葉を聞いて、レイアは明らかに不満そうな表情をした。
その顔をみて村長はあわてて付け加えた。
「いやぁ、スマンスマン。せっかく来てもらったのに悪口を言っているつもりじゃないんだ。ただ、現状を知っといてもらおうと思って。
ただ、打開策は無いわけでもない。物理的には無理だというなら、こちらも不思議な力を使えばいい。」
それを聞いたレイアはまだ不満げな態度のまま、
「不思議な力だって?じゃぁさっさとそれを使ってどうにかすればいいじゃないか。どうせうちらじゃ役に立たないんだろう?」
村長は困ったような顔で
「あ、ああ。だがそう簡単にもいかないんだ。この村のはずれに自分は偉大な魔法使いだといっている偏屈な爺さんがいるんだがそれが本当なら
もしやと思って村人と皆で頼みに行ったのだが、かわいい女性の依頼しか聞かないとかいって動いてくれないんだ。そこで、是非『う・つ・く・し・い』
お姉さんに行ってもらえたら動くんじゃないかと思うんだが。」
村長は『美しい』を強調しつつレイアに向けてそう言った。
エレクが隣に立っているレイアをみると、喜びを隠そうとしているが、隠し切れない様子で
「そ、そこまで言うなら私が頼みに行きましょう。さ、エレク行くよ」
そういうと、レイアはさっさと家をでていってしまった。エレクは村長に頭を下げてレイアの後を追って家を出た。

村長に教えてもらった『魔法使い』が住むといういえの前に着くと、エレクは扉をノックした。
すると、
「やっと来たのか。入ってくれ」
と声が聞こえたので扉を開け、二人は中に入った。
家の奥には窓際の椅子に座った真っ白な長い髪と立派な髭をたくわえた老人がいた。
老人は
「お前達が来るのはわかっていた。随分と時間がかかったのう。」
そう言って鋭い目つきでエレク達を見た。
エレクがその目に威圧され、この老人は本当に偉大な魔法使いなんじゃないかと思い、生唾をゴクリとのみこんだ所で老人は語りだした。
「お前達・・・新しいお手伝いさんじゃな。早く掃除をしてくれ」
エレクはその言葉を聞いてただの勘違いだと気づき、顔を手で覆った。
レイアはまだ上機嫌な様子で、
「村長からあなたが魔法使いだと聞いて、この村の問題を解決してもらおうとお願いにきました。」
それを聞いた老人は満面の笑みでウンウンとうなずいた後、さきほどより鋭い目つきで
「それにしても・・・」
と話し始めたところで
エレクの隣に立っていたレイアがウワッと声をあげたのでそちらをエレクがみると、
「えぇ、尻をしとるのう。」
そう言いながらお爺さんがエレナのお尻をなでていた。
もちろんその直後におじいさんの顔にエレナの拳がめりこんだのは言うまでも無い。
お爺さんは
「痛いのぅ。年よりはもっといたわってもらわないと」
と顔をさすりながら窓際の椅子にもどっていった。
エレクはまだ殴り足りないといった様子で拳をプルプルと震わせているレイアをなだめながら同時に考えていた。
『このお爺さん、今どうやって移動したんだ』
レイアが声を上げる直前まではそれなりに距離のある場所の椅子に老人は座っていたのである。
この距離を移動するにはどうしたって、数秒かかる。
現に今やっと老人は椅子に戻り、腰を下ろした。
そんな事を考えていると、老人は顔の痛みが少し引いたのか、話し始めた。
「わしの名前はソルシエール・ストレーガという。村長からの紹介ということはお譲ちゃんたちの頼みと言うのは
洞窟の障壁に関しての事じゃろう?あれは薄く見えて結構強い障壁でな、もう歳老いて魔力の弱まってしまったのでむりじゃ。」
それを聞いたエレナは再び拳を握り締めた。
「ま、まぁまてまて、慌てるな。方法は無いわけじゃない。この世には強力な魔力に呼応する『賢者の石』というものがあるのじゃ。
それを使えばわし程では無いとしてもまぁまぁな魔法使いを探すのはわけないじゃろうて。」
と、ストレーガは長い髭をさすりながら言った。
「その賢者の石というのはどこにあるのですか」
エレクが尋ねると一拍おいてストレーガは言った。
「ワカラン」
言い終わるか終わらないかのうちにレイアの拳がストレーガの顔にめり込んだ。
「帰ろう」
そう言ってレイアが入口に向かおうとすると
「若いのは気が早くていかん。話は最後まで聞くもんじゃ。」
顔をさすりながらやれやれといった感じで話を続ける。
「ワカランとは言ったが、具体的にはワカランが、どこにあるかはわかっておる。それは、ワシの家の裏にある・・・」
エレクは待ちきれずに話が終わる前に
「洞窟かどこかにあるんですか。僕たちがとってきますよ。」
それを聞いてストレーガは笑顔で言った。
「・・・倉庫にある。そうかそうか、探してくれるのか今中はエライことになっておって片づけるのに苦労するんじゃ。」
「やっぱり帰ろう」
そう言ったレイアから近づくのも怖いくらいのオーラが放たれていた。
「ま・・・まぁ情報もない事ですし、騙されたと思って探してみませんか。」
エレクはレイアをなだめながらそういった。
そして、エレク達が倉庫に向かおうとすると
「美しいお嬢さんに力仕事はさせられんからその間ここでワシとお茶でも飲まんかね。おいしい焼き菓子も用意してあるぞ。」
そうストレーガがいうと、先ほどまで座っていたところにある机の上においしそうな紅茶と焼き菓子が用意してあった。
レイアはあれほど怒っていたのに「美しい」と聞いたからか焼き菓子のにおいに負けたのかまんざらでもないといった感じで
「そうだね。『美しくて、か弱い女性』はここで待ってる事にするよ」
と機嫌が直りかけていることがばれないように、冷静を装って言った。
エレクは『か弱いなんて言ってないよな』とは思ったが、それを口にだすと振出しに戻ってしまいそうなので
「じゃぁ、いってきます」
そういって倉庫に向かった。
倉庫の扉を開けたエレクは中の惨状を見て大きくため息をつくと気を取り直して片づけつつ賢者の石を探し始めた。

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