エレクが倉庫の片づけをし始めてからどれくらいの時間がたっただろうか。
日が傾きかけたころストレーガがエレクのもとにやってきた。
「どれどれ、おぉずいぶんきれいになったもんじゃのぅ。」
ストレーガは髭を撫でながら満足そうな顔をしていた。
「それで、賢者の石とはどれですか。」
エレクは疲れた腕をさすりながら聞いた。
「おぉ、こんな所にあったか。」
そう言うと倉庫の奥にある人の頭二つ分くらいの大きな石を見ている。
「これですか。では家にもっていきますね。」
エレクはそういって腕を振ってから持ち上げると、ストレーガの家へ持って行った。
家の扉を開くとレイアが自分以上にグッタリとした様子で椅子に座っていた。
この一癖二癖あるストレーガと一緒にいたのだからさ散々振り回されたのだろう。
エレクはあえて触れずに
「この石はどこにおけば良いですか」
と聞くと
「そこにある樽の上に置いてくれるか。」
そう言われたので部屋の隅にある樽の上に石を置いた。
「この賢者の石をどうすれば良いのですか」
エレクが聞くと、
ストレーガは不思議そうな表情をして、
「賢者の石、何をいっているんじゃ。それはただの漬物石じゃよ。いやーどこに行ったのか
わからなくてなぁ。これでいいものが作れるわ。」
すでに反応すらできなくなっているレイアに代わってエレクが拳を握った。
「ま、まて。ワシは一言もそれが賢者の石とは言っておらんぞ。その石のあった隣にちょうど
おぬしが握っている拳ほどの大きさの石が転がっておったじゃろう。それを持ってきてくれんか。」
エレクはぐったりとしつつもストレーガに言われた通りさきほどの倉庫へ石を取りに行った。
見た感じなんの特徴もないただの石にしか見えないが、他にそれらしいものがないのでエレクはそれを
手に持つとストレーガの家へ戻った。
「そうそう、それじゃ。じゃぁこちらに。」
ストレーガに言われるままエレクは持ち帰ってきた石を手渡した。
ストレーガはそれを机の上に置き椅子に座るとブツブツと呟き始めた。
しばらくすると石が強い光を放ち始めた。
その光を見てストレーガがニヤリと笑うと石がバラバラと崩れた。
「なっ・・・!なんてことをするんですか!」
思わずエレクが大きな声をあげた。
「落ち着いてよく見なされ。崩れたのは外側だけじゃ。」
ストレーガにそういわれ、強い光で眩んだ目を凝らしてみると、
飴玉ほどの大きさの青く透き通った石が転がっていた。
「これが賢者の石じゃ。二人とも疲れたじゃろう。今晩はここに泊まっていくといい。」
ストレーガが満面の笑みで進めてきた。
まだグッタリとしているレイアをチラリと見て素直にその言葉に甘えることにした。


次の日、レイアとエレクは荷物をまとめていた。
そこへストレーガがやってくる。
「この後魔法使いを探しに行くのじゃろう。それならばこの村を出て東に行くといいだろう。3日程
行ったところに魔法使いたちの町がある。そこへ向かうといい。それとな・・・」
ストレーガはそこまで話すと懐から小さな袋をとりだす。
「これを持っていくといい。賢者の石を包んでいた石の粉末じゃ。何かの役に立つかもしれん」
エレクはそれを受け取るとレイアと家を出た。
「事がすんだらまたワシに会いに来てくれ」
そういいながらストレーガは手を振りながら見送ってくれた。
レイアは嫌な顔をしたが、エレクは色々とあったけど協力してくれたストレーガに感謝をしていたので
きっとまた来ようと思った。

3日の旅は獣に襲われることもなく順調に進み、ストレーガの言っていた魔法使いの街が見えてきた。
街は全体的に宝石やガラスで装飾され、あちこちがキラキラと煌めく大きく栄えているのが外からでも
容易に見て取れた。
門の前まで行くと、門番二人居り何も言わずに構えた。
それを受けてエレクとレイアは身構えた。レイアも構えた所を見ると、どうやらこの町には来たことが無い様だった。
門番達がなにかを呟くと小石ほどの火球が飛んできたレイアはそれを構えていた剣で門番に向かって弾き返した。門番の一人は慌てて身を伏せた。
一方エレクは身構えていたものの火球を弾き返す余裕はなく躱すだけで精いっぱいだった。
実際門番達は特に火球を投げるような動作をする訳でもなく突然飛んできたのだ。
エレクが未熟というわけではなく、レイアの反応速度が素早いのだろう。
身を躱したあと再び門番の方へ目を移すとぎょっとした。
身を伏せた門番も立ち上がり、二人の周りに複数の火球が漂っていた。
「さぁ、エレク行くよ。」
レイアのその言葉にエレクは身構え二人は同時に走り出す。
門番達はそれに合わせるかのように漂わせていた火球をエレク達に向けて飛ばしてきた。
軽々と火球を弾きながらどんどんと進んでいくレイアに遅れないようにエレクも同様に
火球を弾きながら必死について行く。
二人が門番に剣が届く位置まで来たとき一斉に振り下ろす。
剣を門番の目の前で止めた時
「合格です。お通り下さい」
そう言って門番は街への道を開けた。
その時に初めて気づいたが、門番は二人とも子供のようであった。
街の中に入ると太陽の光があちこちに反射し、外から見た以上に街を美しく彩っていた。
「さて、久々にシャワーをあびて柔らかいベットで眠れるねぇ。まずは食事といこうじゃないか」
レイアが嬉しそうに言った。
そのエレクの横を胸くらいの身長の少年が
「ごめんなさい」
と言いながら駆け抜けていった。
その直後二人の後ろから
「待ちなさーい」
という声と共に先ほどの門番達の物とは比べ物にならないほどおおきな火球がエレクのすぐそばを
飛んで少年に向かって飛んで行った。
火球が少年を今まさに飲み込まんとしようとしたその時、薄い膜の用な物に弾かれて上の方に向かって
飛んで行った。
ホッとしたのも束の間、弾かれた火球は2階からニコニコと様子を見ていた老婆に向かって飛んで行った。
しかし、その老婆は火球が見えていないのかまったく動じることなくニコニコと動かずにいる。
「危ない!」
そうエレクが叫ぶと同時にやはり先ほどの少年の時と同様に薄い膜に弾かれ今度こそ誰もいない空に向かって飛んで行った。
「おいっ!エレク!」
レイアがそう叫びながらエレクの胸元を指さすのでそこを見ると強い光を放っていた。
慌ててそこから光の元となっているものをとりだすと、それは賢者の石が放つ物であった。
「ひょっとして」
そう言いながら火球の飛んできた方を振り返ると体全体で怒りを表すかのように腰に手をあてている女性が
立っていた。
エレクとレイアは目を見合わせてその女性に向かって近づいて行った。
「すいません」
エレクが声をかけると慌てて笑顔をつくり
「ごめんなさい。びっくりしたでしょう」
見た感じレイアと同い年くらいのショートカットの女性は答えた。
「今の火球はあなたが撃ったのですか」
エレクが単刀直入に聞くと
「本当にごめんなさい。」
女性は深々と頭を下げた。
エレクは慌てて
「あ、そういうつもりじゃないんです。ちょっと話を聞かせてもらいたくて」
そう言うと
「話ですか。じゃぁお詫びも兼ねて家に来ませんか。私はフラムといいます。このすぐ近くで宿屋をやっているのでおいしいものをご馳走します。」
その言葉を聞いたレイアが目を輝かせているのでエレクはその言葉に甘えることにした。
宿屋はこじんまりとした所だったが隅々まで掃除が行き届いており心地よい空間が広がっていた。
レイアとエレクが案内された机の上にはおいしそうな料理が次々と並べられていく。
ひと段落すると女性はも席に着いた。
「自己紹介がまだでしたね。僕はエレクです。」
「おいしい食事をありがとう。私はレイアだ。」
フラムは頷くと二人をまっすぐに見て言った。
「ところでお二人は恋人なんですか?」
急にいきなりそう聞かれレイアがむせながら反論する。
「ちっ違う・・・そんなんじゃない。ただ成り行き上一緒に旅しているだけで・・・ごにょごにょ」
顔を真っ赤にして反論するレイアの様子をフラムはニコニコと笑いながら見ていた。
十分楽しんだのかフラムが本題を切り出す。
「ところで、聞きたいことというのはなんですか?」
まだ動揺しているレイアに変わってエレクが話す
「実はこの町から少し離れた村で問題があって、それを解決するには不思議な力が必要と言われました。」
エレクは胸元から賢者の石を取り出しながら話を続ける。
「それでその使い手を探していたのですが、力の強い人間にこの石が反応すると言われ、持ち歩いていた
所先程の騒ぎの時に強く反応したのでひょっとしてあなたがそうなのではと思ったのです。」
「そうですか。なるほど、その石からは不思議な力が感じ取れますね。ちょっと貸していただけますか。」
そう言って石を受け取ると目をつぶると手を顔の前にかざしぶつぶつと何かを唱え始めた。
するとフラムのかざした手の前に頭の大きさほどの火球がふわふわと現れた。
火球の影響か、部屋の温度が汗ばむほどに熱くなった。
しかし、賢者の石は何の反応も示さない。
フラムは溜息をつき、かざした手を握ると火球はフッと掻き消えた。
「どうやら私ではなかったようですね」
そう言いながらフラムが石をエレクに返した時ぼんやりと石が光を放った。
それと同時に家の扉が開く。その音に反応してエレクが扉に目を向けると
「ただいまフラム姉さん。あれ?お客さんがきてるの。こんにちは」
10歳くらいの小さな少年が扉を入った所でぺこりと頭を下げた。
エレクは石に目を戻したがすでに光はきえていた。
「お帰りなさい。テール今日は早かったのね。」
そう言いながらフラムはテールの分の食事を用意を始める。
「今日は魔法の試験だから早かったんだよ。」
テールは鞄をフラムの座っていた席の隣の椅子の背もたれに掛けてその椅子に座った。
フラムがスープの入った皿をテールの席の前に置くと
「そうだ。テールも朝一緒にいたんだから。試してみるといいわ」
それを聞いたエレクは賢者の石をテールに渡す。
テールは石を渡されたがどうしていいのかわからないといった様子で首をかしげる。
「ほら、何でもいいから魔法を使って」
フラムに促されてテールは立ち上がり、手を前にかざす。
すると先程のフラムと同様に火球が現れる・・・が、それはフラムの出した物とは違い豆粒の様な大きさだった。
石は何の反応せずにテールの手の上に収まっていた。
テールはかざした手を握り現れた火球を消すと、石をエレクにかえした。
「テールは魔法の力は強いのだけれど、性格的に攻撃魔法は不得意なのよね。当たったら相手が痛いとか言ってたら自分の身も守れないのに。
優しいことはいいことだと思うんだけど限度ってものがね。」
呆れつつも笑顔でフラムは言った。
「まぁ、今晩は泊まっていきなよ。まだこの街にいるんでしょう」
フラムが空いた皿を片づけながら聞いてきた
「ありがとうフラム。是非そうさせてもらうよ。二部屋お願いね。」
レイアが満足そうにお腹をさすりながらそう答えると
「あら、一部屋の間違いじゃなくて?」
と、フラムが再びレイアをからかう。
その言葉を聞いたレイアが動揺する様子を楽しげに見ながらフラムは宿帳をつけた。




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