最凶の鍛冶師

 

一振目 最凶の新人登場

 

俺の名前はブラス。鍛冶屋の集まる街【シューミッツ】に住んでいる。

うちの家系は先祖代々鍛冶屋を生業としていて、親父の話じゃ祖先様は

この国に住んでいる子供なら誰でも知っている伝説の勇者の剣を打ったとか打たないとか。

 

親父の腕前も確かなもので何度も王国の開く鍛冶師の大会で優秀な成績を収めている。

そんな親父に物心つくころから鉄の扱い方を叩き込まれてやっと今年の新人大会に一振りの剣を出すことを許された。

 

そんなわけで、今は今年の大会のテーマである【美しい武器】のイメージが降りてくるまで

街をブラブラしているところだ。

 

街中からことしの大会に向けてであろう剣を叩く音が聞こえてくる。

まぁ、あんな鈍い音をさせているやつらじゃぁ俺の相手にはならないだろうな。

 

「やぁ、偶然だね。君も今年の大会にでるんだろ」

・・・嫌な奴に会ってしまった。

「悲しいなぁ。そんなあからさまにめんどくさそうな顔をしなくてもいいだろう」

今話しかけてきた目の前にいるこの金髪で青眼の優男はうちの隣に住んでいる幼馴染のフォルジュだ。

コイツは俺が小さいときから気安く声をかけてくるから苦手なんだ。

「俺が出ると何か不都合でもあるのか」

ため息交じりに言い返す。

「いや、僕もでるから楽しみにしてるんだよ。君の打つ武器はいつもすばらしいからね」

・・・満面の笑みで恥ずかしいことをいいやがる。

「おーい、フォルジュー。」

遠くから手を振りながら数人の男女が近寄ってくる。

「ほらフォルジュ、俺と話していないでさっさとあいつらの所に行ってやれ」

俺はフォルジュに背を向けて歩き始めた。

「ブラスー。大会でまた会おうねー」

楽しそうな声を出しやがって。見なくても大きく手を振っているだろう事がわかる。

「なんでブラスとなんか話してるの。あいつなんか怖いから私嫌いなんだよねー」

 

セルジュに声をかけてきたうちの一人の女がワザと大きな声で話しているのが聞こえる。

そうだ、これでいい。騒がしいのは苦手なんだ。

 

しばらく歩くと一本の大きな木が生えた小高い丘までやってきた。

ブラスは木陰で地面に背中を預けるとボーっと空を見上げながら構想を練り始めた。

 

「美しい武器か・・・」

一言で美しいといっても人の受け取り方でどうにでも変わるものだからな。

全員が納得しなくてもいい。そうだな、7割方の審査員が良いと評価する様な物を

打てばいいだろう。

「・・・そうか、これだ。」

そうつぶやくとブラスは仕事場へと戻っていった。

 

セルジュの仕事場は潔癖かと思えるほど整然と仕事道具がならんでいる。

「まずは・・・そうだな。材料はオーランドの滝の瀑布に長い間打ち付けられても削れない鉱石と、いくら消そうとしても火の消えることのないコルーの石炭と・・・」

ブラスは準備を着々と進めていく。

 

「よし、これで準備ができた。」

セルジュは慣れた手つきでどんどんと剣を形作っていく。

セルジュがハンマーを打ち下ろす度に火花が飛び散り放物線を描いて落ちていく。

 

 

数週間後・・・

研ぎ終わった剣を置いて

「よし、これでいいだろう。」

ブラスはそう満足げに言うと顔の汗を拭い仕事場を後にした。

 

大会当日

大会はこの国にある城の広場にて行われる。

城の一般人が入れるのはあまりないことで街中の人間が集まり、出店もでて一種のお祭り騒ぎのようになる。ブラスはあまり騒がしいのは好きではないのだが、色々な武器の見られるこの大会だけは子供のころから好きで何度も来ていた。

 

「ブラス。仕上がりはどうだい」

ブラスの背後から声をかけてくる一人の青年

『この声は・・・』

ブラスが振り返ると両手に出店で買ったであろう大量のお菓子やら肉やらを抱えた

セルジュが笑顔でたっていた。

「やっとこの日がきたね。本当にブラスの武器を見るのが楽しみだよ。はい、これブラスの分。」

そういって強引に串に刺さった肉をブラスに押し付けるとセルジュはその場を離れていった。

「あいつはどんだけマイペースなんだ・・・」

ブラスはため息をつくと。受け取った肉にかぶりついた。

「旨いな・・・」

 

「第284回、新人鍛冶師大会。今回のテーマは美しい武器」

大会進行者が広場に響き渡る声で大会の開始を告げると会場から割れんばかりの

歓声があがった。

 

大会はまず一人ずつ武器を差し出しそのフォルムの美しさの説明と

国で使われている防具を使用した試し切りとでその総合評価で優秀な者を決定する。

 

ブラスが見る限り自分の敵になるような選手は見当たらず、見た目が何の個性も無く切れ味もそれなりの物や、一方では装飾に凝りすぎて防具に傷の一つもつけられない物、挙句の果てにちょっと切りつけただけで刀身が折れてしまう物まで出る始末。

 

「これは今年の優勝は頂いたな」

そうブラスが呟いた時に観客達からどよめきが起こった。

「なんて美しい刀身なんだ」

「あれはどうやって打ったんだ。まるで濡れているかのようだぞ。」

「なんてかっこいい人なのかしら」

人々から口々に賞賛の言葉が発せられる。(たまに武器と関係ない物もまじっているが・・・)

進行役が鍛冶師の紹介をする。

「この選手の名前はセルジュ=ルミエール、観客の皆様にはご存じの方もいるとは思いますが、新進気鋭の若者でございます。ではこの美しい武器の紹介をしてもらいましょう」

そう言ってセルジュに発言を促すとセルジュはまず深々と観客と国王に一礼をした後に楽しげな表情で話し始めた。

「僕はまず今回のテーマである【美しい】とは何かと考え、街を歩きました。この街にも美しいものはたくさんありましたがなかなかしっくりくる物が無く、やがて街の外にまで出た時にそれをみつけたのです。お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、【川】です。僕は一日中そこで川を見続けていました。すると時間帯によってさまざまな表情を見せてくれる自然に勝るものはないと思いこの武器のインスピレーションを得たのです」

 

自然からヒントか。やはり俺と考えは似てくるものだな。

そんなことをブラスが考えていると、続いて試し切りの時間がやってくる。

国に属する兵士がやってきてセルジュの剣を持ち上げると光の当たり方によって様々な色に変化しているかのように刀身が煌めき、会場から感嘆のため息がもれる。

 

兵士は案山子に着せられた鎧に近づくと、一気にその剣を振り下ろした。

 

・・・会場からどよめきが起こる。

 

確かに兵士の間合いでは鎧を切りつけたはずなのにそれはピクリとも動かず傷もついていない。

 

あの剣も見た目だけなのか、と会場の誰もが思ったとき。

 

そんなことは気にしてないという風な表情でセルジュが案山子に近づいて歩き始めた。

 

「お、おい、何をするつもりだ」

 

兵士が慌てたようにセルジュに話しかけた時、セルジュはそっと案山子を押した。

 

次の瞬間鎧は真っ二つにわれて地面に落ちた。

 

会場は大歓声につつまれ、拍手がやまない。

 

そんな中セルジュが兵士に耳打ちをするとその兵士はもう一人の兵士を呼んだ。

 

「まだ、あいつなにかするつもりなのか」

ブラスが鋭い目つきでその様子を見続けていると、兵士二人は今切った鎧を持ち上げて

二つの切り口をぴたりと合わせる。

 

すると切り口がどこかわからないほど元の状態に戻ったように見える。

その時一人の兵士が驚きのあまり手を滑らせて鎧を地面にゴトリと落としてしまった。

 

しかし鎧は二つに分かれることなく地面の上にころがっていた。

元の状態に戻った用に見えたのではなく元の状態にもどったのだ。

会場から割れんばかりの歓声があがりセルジュは何度も頭を下げると会場を後にした。

 

そしてブラスの出番がやってくる。

進行役が紹介を始めた

「この選手の名前はブラス=ダクネ、あの有名なダクネ一族の一人でお父様はこの国の大会で何度も最優秀賞を獲得しています。では準備ができたようなので早速会場内にブラス選手の武器を持ってきていただきましょう。」

そういうと、台にのせられた武器が会場内に運ばれてきた。

 

会場がざわつき始める

「なんだあの形容しがたい形は」

「あんな形に鍛えるなんてどうすれば出来るんだ」

「私ちょっと気分が悪くなってきた」

 

進行役が会場のざわつきをジェスチャーでおさめて進行する。

「ブラス選手。武器の説明をお願いします。」

 

ブラスは会場内の見渡すと説明を始めた。

「癪な話だが、俺もセルジュと同じく自然にその答えを見出したわけだが、ヒントとなったのは一本の大木だ。その木は空に向かって枝を伸ばし、一方で力強く大地を引き裂いて根を張っていた。武器の本文は【破壊】だ。この一点をわすれるようじゃぁお話にならない。」

 

会場はブラスの剣の出す禍々しさとブラスの力強い説明に圧倒され、静まりかえっていた。 

 

「で、では兵士さん武器の試し切りをお願いします」

 

兵士は恐る恐るブラスの武器に近づき重そうに持ち上げて案山子に近づいていく。

そして一気に案山子に向かってその剣を振り下ろすと鎧はバラバラに切り裂かれ地面に散らばった。

 

会場がまたざわつき始める

「なんだあのドロドロに溶かした様な切り口は。あれじゃぁもう修復すら難しいだろう」

「おい、見てみろよあの破片。なんか苦悶の表情の顔が浮かんでいるみたいじゃないか」

「お母さん・・・こわいよぅ」

人々はその武器に多かれ少なかれ恐怖を感じていた。

 

「あ、ありがとうございました。ではブラス選手ありがとうございました。」

 

ブラスは周りを見渡すと満足げに会場をあとにした。

 

鍛冶師達は自分の出番が終わった後一か所に集められて、結果発表を待っていた。

 

ブラスがその場所に行くと選手たちはブラスから一定の距離を開けて離れていった。

しかしそんな中、セルジュが満面の笑みで近づいてきて話しかけてきた。

 

「やっぱりブラスはすごいや。あんなにすごい武器僕にはとても作れない。もっと修行しないとな」

 

・・・ブラス以外が聞いたら嫌味にしか聞こえないかもしれないがセルジュは本心でこのように言っているのだ。

 

「まぁこの中じゃ俺の相手になるのはお前くらいだろうからな」

そういいながらブラスが周りの選手達を睨み付ける。

「そんな事ないよ。みんないい鍛冶師じゃないか」

そういってセルジュはブラスをたしなめた。

 

そうこうしているうちに選手達は兵士に呼ばれ広場の中央に集まって移動した。

 

国王が出てきて会場の人々に話し始めた。

 

「今回の大会もなかなかレベルが高く非常に楽しく見させてもらいました。中にはちょっと修練が足りなくて武器としては使えないようなものもあったみたいですが。」

 

会場から笑いがおきる

 

「ただ、若い鍛冶師達の成長を感じましたし、今後も期待しています。ではそろそろ皆が待ちかねている結果を発表します」

 

進行役が国王に一枚の紙を渡すと国王はうなずいて読み始めた。

 

「今回の優秀新人賞は、ブラス=ダクネ」

その発表をきいて会場はどよめいていたが、そんなことは気にせず、むしろ最優秀ではなかったことに不満な表情を隠すことなくブラスは国王の前に歩み出た。

 

国王が語り掛ける

「君の武器の威力には驚かされた。が、もう少し見た目を・・な。」

そう優しく微笑みかけてブラスに小さめのハンマーをかたどったトロフィーを渡した。

ブラスは国王に一応頭をさげて鍛冶師達のもとへもどっていった。

鍛冶師たちのおびえた表情の中でセルジュだけが大きな拍手でブラスを迎えた。

 

「では引き続き今回の最優秀新人賞は・・・皆も大体予想できていると思うが、セルジュ=ルミエール」

 

発表されると、ブラスの時をは違い会場から大きな歓声と拍手が沸き上がった。

セルジュが驚いて固まっていると他の鍛冶師達に促されて国王の前まで

歩み出た。

 

「君のような若者がこの街を引っ張ってさらに発展させていいてくれ。頼むぞ。」

国王はそういってセルジュにハンマーをかたどったひときわ大きなトロフィーを渡した。

 

会場からひと際大きな拍手が沸き起こり他の鍛冶師達もセルジュに駆け寄って喝采をあびせた。

 

そんな中ブラスはセルジュを認める自分を否定しつつも一人会場を後にした。

そしてその日は大会後の後夜祭にもでることなく眠りについた。

 

 

一方そのころ・・・

 

「魔王様、ご命令の通り行ってまいりました。」

全身を鎧で固めた一人の兵士が頭を深々と下げて挨拶をする。

 

「それで、なにか収穫はあったか。」

魔王と呼ばれたモノは低い声でその兵士の続きの話をうながす。

 

「はい、やはり人間風情の作る武器など見た目ばかりで大したものはありませんでした・・・が、」

 

一息おいて兵士は続ける

 

「一振りだけ強い負のオーラを発する武器がございました。」

そう言って兵士が壁に向かって手をかざすと、ブラスの武器の試し切りの映像が浮かび上がった。

 

「おお、これは興味深いな。よし、この鍛冶師の動向を監視し続けろ」

魔王は楽し気に兵士にいいつけると兵士は頭を深々と下げ部屋を後にした。

 目次へ       次へ

 

 

 

inserted by FC2 system