オウルと主と呼ばれる少年はあれから毎日のように訓練を続けていた。
少年はめきめきと力をつけ、オウルに一瞬で倒されることは無くなっていた。
毎日の『食事』で少年の配下も増えていた。
訓練が終わった直後で床に手を付き肩で息をしている少年にオウルは息切れもせずにたずねる。
「ところで主よ、我々は今後どのように動けばよろしいでしょうか。」
そう尋ねられて少年は戸惑いつつ
「どのように、と言われても・・・」
それを聞いてオウルは厳しい顔つきで答える。
「主は我々を導いていかなければなりません。最初のうちは私も補助を致しましょう。
しかし、下の者をまとめていくには大きな理想を掲げなければなりません。
考えておいてください。」
オウルはそれだけ言い終えると部屋を後にした。
少年はオウルが立ち去った後よろよろと立ち上がり自分の部屋に戻った。
部屋に戻るとベットの上に仰向けになり、先程オウルに言われた言葉を反芻していた。
『理想と言われても・・・・皆と飢えることなく過ごしていければいいとおもってるんだけど』
ぼんやりと考えているうちに訓練の疲れもあったのかウトウトと眠りについてしまった。
翌朝、オウルと少年は同様に訓練をしていた。
部屋の中は砂埃が舞い上がり、大きな音と共に衝撃波が発生している。
「そうです。主もなかなか腕を上げられましたな。ですが、まだまだ・・・」
オウルはそう言うと少年の後ろに回り込み少年を掴むと壁に投げ飛ばした。
壁がガラガラと音を立てて崩れる。
「さて、今日の訓練はこの辺にしておきましょう。では、昨日の答えはまとまりましたでしょうか。」
そう言うとオウルは崩れた壁の方へと目を向ける。
少年は自分の上に崩れてきた瓦礫をどかすとよろよろと立ちあがると昨日考えたことをそのままオウルに伝えた。
オウルはそれを聞き、しばらく考えていた。
少年はその様子を見て、怒られるのではないかと緊張した。
「わかりました。良い考えですね。」
そのオウルの意外な言葉に少年はホッと胸をなでおろした。
オウルは笑顔でこう続けた
「では、こう致しましょう。我々の版図は現在非常に狭くなっております。
なので、食糧の安定供給には少々足りません。人間の領土に攻め入りそれを奪う事にいたしましょう。
今後の作戦を考えますので主はしばらく部下と特訓をしていて下さい。ちょうど主の産み出した者が一人覚醒しました。」
そう言ってオウルが扉の方に目を向けると人影が一つ見えた。
が、次の瞬間には少年の目と鼻の先に女性の顔があった。
「あら、かわいい顔をしているのね。」
そういいながらその女性は少年の顔を手でサラリと撫でる。
少年が動けずにいると、オウルが咳払いをする。
女性はそれに呼応する様に一歩下がると
「これは自己紹介もせずに失礼しました。私はアイネ・キュッヘンと申します。自慢はこの美しい黒髪と・・・」
そう言いながら床まで届きそうな長い髪をサラリとかきあげると、いつの間にか少年の後ろに回り込む。
「この素早さ、それから・・・しぶとさね」
そう言いながらアイネが少年に後ろから抱きつこうとすると再びオウルが咳払いをした。
「なによ、もう。後は若い二人に任せようって気は利かせられないのかしら」
そのアイネの言葉を聞くとオウルは大げさな仕草で溜息をつくと、
「主よ、その者はふざけた感じではありますが実力は申し分ありません。では私はこの辺で戻ります」
オウルはアイネを見るともう一度見せつけるように溜息をつくと部屋を後にした。
「なんなのよあの態度は。まぁいいわ、これで二人っきりでしばらくの間は楽しめそうね。では私も今日は
部屋に戻ります。明日から楽しみだわ♪」
そう言ってアイネは笑顔を作るとあっという間に部屋から出て行った。
一人残された少年はオウルに言われた言葉を思い出し、
「領土の拡大か。そうだよね、そうしないと人数も増やせないもんね。」
そう独り言を呟くと。頭の中にかかった霧を振り払うように頭を振ると自分の部屋に戻った。



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